第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
"会うことはもうないはず"
何の根拠もなくそう思っていた。
ところが、奈々子さんと飲んでから数日経った夜。
「わ、蛍くんだ!」
「……コンバンハ」
呆気なく、僕たちは再会を果たすことになった。
お酒を楽しみたいときに訪れる、行きつけの店。
店自体は小さいけれど、アルコールの種類は豊富。
それとは別に気に入っているのは、本当に酒好きしか訪れないような店だということ。
要は、居酒屋みたいにドンチャン騒ぎするような人間はいない。
むしろ、一人で呑んでいる客の方が多い。
その中に奈々子さんの姿を見つけたのだから、驚くのも無理はない。
記憶に新しいその人の顔を見下ろしていると、人懐っこい笑顔で隣の空席を指で示して見せる。
「一緒に飲も?」
普段なら断るところだが、前回は成り行きで奈々子さんに支払いをさせてしまっている。
女の人にお金を出させたままなんて、僕の気も済まないし…
「……はい」
またもや成り行きで、彼女の誘いに乗ることにした。
聞けば奈々子さんはワインが好きらしく、よくこの店を訪れるのだと言う。
カウンターに目を向けてみれば、飲みかけのグラスの中には赤ワインが僅かに残されただけ。
「飲みたいものあったらどうぞ?今日は僕が奢るんで」
「え、いいの?」
「はい。あ、この前はご馳走さまでした」
「あれはいいのに。あの後ね、私ってば愚痴言い過ぎたなって反省したくらいなの…。ホントにごめんなさい…」
「…いえ」
正直、謝ってもらいたいほど迷惑だとは思わなかった。
奈々子さんの元カレを想う気持ちも、他の女性に劣等感を抱く気持ちも、わからなくはなかったから。
たぶん、同情も共感も僕の中にあったんだと思う。
気を取り直してメニューを開く。
すると奈々子さんはそこに目を落とすでもなく、僕の顔を覗いてくる。
「じゃあ蛍くんのオススメのお酒、飲んでみたい」
「ワインしか飲めませんか?焼酎ならオススメあるんですけど」
「焼酎かぁ。飲んでみよっかな」
僕が好んで飲む焼酎のひとつ。
口当たりが優しいから女性でも飲みやすいと思う。
奈々子さんの分と自分の分を頼み数分待ったところで、僕たちの前にそれが並んだ。