第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
少しだけ丸くなった奈々子さんの瞳は、次の瞬間細く形を変える。
「いいの?嬉しい!じゃあ、また連絡するね」
「…はい」
まあ別に、ただ飲みに行くくらい…。
最初こそ強引な人かと思ったけど、会話にしても今の誘い方にしても、意外とこちらのペースを気にしてくれている。
特段奈々子さんに悪い印象はない。
僕たちは改めて連絡先を交換して、その日は別れた。
奈々子さんからメッセージが届いたのは、一週間後。
お互いの仕事の都合を考慮しつつ、再び飲む日にちが決まった。
こんな風に女の人と約束をして会うなんてこと、随分と久しぶりだ。
恋愛関係ではない。そういう感情もない。奈々子さんにも、もちろん僕にも。
お酒が好き、という共通点で繋がれただけの糸。
あんまり僕らしくはないけど、こういうのもアリかも…くらいに深く考えてはいなかった。
それに、木兎さんとか日向とか五色とか、黄金川…黄金沢…アレ、黄金井…?だっけ…?
まあとにかく、そんな感じの人たちと関わってきた経験もあるから、たぶん直球型の人間にも耐性がついてるんだと思う。
昔は面倒くさく感じてたタイプの奈々子さんと関われるようになったのは、僕がある程度大人になったから…だろう。
「なあツッキー!最近奈々子と仲良しなんだって?」
週末、呼び出しに応じて訪れた木兎さんの家。
三人で囲む木製のローテーブルの上には、数種類のアルコールの缶やボトルが並ぶ。
そんな中、突如挟まれた木兎さんの発言。
仲良し…?そんなまた、小学生みたいな…。
奈々子さんとは知り合ったばかりだし、その言葉のチョイスはどうなんだと眉間に少し力を入れる。
訂正しようと口を開きかければ、もう一人の悪ノリ好きなセンパイがすかさず首を突っ込んできた。
「ナニナニ~?奈々子チャンってだぁれ?」
「俺の高校ん時のダチだよ。たまたま連絡したらさ、最近ツッキーと2回も飲んだって言ってて!」
「へぇ~?ツッキーがねぇ?」
ホントにイヤラシイ顔するよね、この人…。
ニヤニヤと僕を見てくる黒尾さんから視線を逸らす。
しかしいくら視線を逸らしたところで、その話題までもがどこかへ逸れていってくれるワケがない。
…この二人に限って。