第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
「あ、もうこんな時間だね」
時刻は21時になろうかというところ。
スマホに視線を下ろしたあと、奈々子さんはそれをバッグへとしまう。
「明日も仕事なんだよね?」
「はい」
「付き合ってくれてありがとう、蛍くん。楽しかった」
「いえ…」
「じゃあ、帰るね」
そう言って、二枚の伝票を持ち立ち上げる。
「は、それ…」
「一緒に払っとく。蛍くんと話して気分転換できたし、お礼」
「でも僕、食事もしたし…」
「じゃあ次は、美味しいお酒ご馳走して?」
「ちょっ、」
「またね。おやすみなさーい!」
軽く手を振って、奈々子さんは颯爽と店から出て行ってしまった。
「……はぁ……元気な人」
しきりに "また" とか "次" とか言うからてっきり…
連絡先聞かれて、強引に次の約束でも取りつけるつもりなのかと思ってた。
見た目だけで言い寄ってくる女に遭遇すると、ありがちな展開。
自分じゃよくわからないけど、僕はいわゆる女受けする見た目らしい。
でも見た目しか判断材料がないところから僕の中身を知れば、"冷たい" 、 "辛辣" って、今度は手のひらを返して離れていく。
ほんっと、しょうもない。
僕だって大事にしたい人にならそれなりに優しくするよ。
そんな風に思えない女だから切り離してるだけのことなのに。
奈々子さんがそういうタイプの女じゃないことには、少なからず安堵した。
木兎さんの友達と面倒事を起こすのは御免だ。
まあ、さっきのは社交辞令なのだろう。
会うことはもうないはず。
そう結論付けて、僕は帰路についた。