第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
記憶を呼び起こしている傍ら、その女の人は続ける。
「確か、木兎の友達だっけ?」
「後輩ですけど」
「あ、そうそう。ちゃんと名前も覚えてるよ」
「はぁ…」
「ワッキーでしょ!」
「いや、ツッキー」
……じゃなかった。
「…月島、です」
ほぼ初対面なのに構わず絡んでくるあたり、木兎さんの友達というのも頷ける。
「月島くん?下の名前は?」
「蛍です」
「蛍くんかぁ。名前で呼んでいい?」
「え…、はぁ、どうぞ」
「私、奈々子です。木兎とは高校の時の同級生」
ああ、そう言えばそんな感じの名前だった気がする。
「今日は一人?」
「はい」
「じゃあ一緒に飲も。ていうか、お酒付き合って?私ね、昨日彼氏と別れたとこなの。二股かけられて。最悪でしょ?」
いいも悪いも言わないうちに、僕の隣の席に移動してくる奈々子さん。
何かコミュ力凄いんですケド…。
僕、人を寄せ付けない部類の人間じゃなかったっけ?
「…ご愁傷さまです」
「ふふっ…面白いね、蛍くんて。イケメンだし。いいなぁ」
「……」
「あ、別に飢えてるわけじゃないからね。イケメンは目の保養になるけど、付き合う人を顔で選んだことなんてないから」
「…そうなんですか?」
「うん。前の彼氏なんてね、キングコングみたいな人だった」
キングコング…?
どんなだっけ。あとでググろ。
付き合ってまだ半年ほどだったという、奈々子さん。
彼氏と会う回数が減り連絡が減りおかしいと思っていたところ、街中で浮気現場に遭遇したんだとか。
まあ、よくある話だよね。
でも昨日別れたと言う割には、お酒を進めつつアッサリと話をしている。
「こう言っちゃ何ですけど」
「ん?」
「何かあっけらかんとしてますね」
「そうかな。これでも昨日は泣いたんだよ?
それに、浮気かなー?って薄々思ってて。ハッキリとした事実がわかんなかった時の方が辛かったな」
「そんなもんですか?」
「そんなもんだよ。あ、でもね。浮気相手の女の子とは、すっごく楽しそうにしてたんだ。
私にはそんな顔見せてくれなかったな、私じゃダメなんだなって…そう思ったら、すごく悲しくなった…」
ああ……うん…、
それはわかる。