第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
その人と二人で飲んだのは、平日の夜だった。何曜日かは覚えていない。
早めに仕事が終わったため、さっさと夕食を済ませ家に帰り、ゆっくりと過ごしたかったのを覚えてる。
もう行きつけになってしまった、黒尾さんの彼女が働くお店。
最初は黒尾さんと来ることが多かったのだが、思いのほか料理もデザートも美味しく、一人でも訪れるようになり今に至る。
決まって頼むのは、パスタとサラダのセットにワイン。苺のショートケーキはテイクアウトして、家で食べる。
今夜もそのつもりだった。
混んでこそいないが夕食時に近いこともあり、ほどほどに埋まっている客席。
カウンター席に案内された僕は、注文のあとスマホに届いたメッセージをチェックする。
グループラインで10件近く届けられたそれに嫌な予感を抱きつつ、全てに目を通す。
木兎さん、木兎さん、木兎さん、木兎さん、
黒尾さん、木兎さん、木兎さん、木兎さん…
まだ延々続きそうな木兎さんオンステージ。
きっと赤葦さんスルーしてるな。
見なかったことにしよう…。
そっとアプリを閉じた。
テーブルにスマホを置きガラス張りの厨房に目を向けてみれば、黒尾さんの彼女―――梨央さんの姿が目に入る。
こちらには気づいていないようで、黙々と作業している。
…こっちも見なかったことにしよう。
あの人は、どうも苦手。
暇だな…なんて思ったところで、ふと横から感じる視線。
顔を向けてみると、空席を挟んだ二つ隣の席から一人の女の人が僕を見ていた。
…何?
あれ?何か見たことある人…
確か……
「あ、やっぱり!こんばんは。前に一度、ここで会ったよね?」
「……そうですね」
そうだ。この店で会ったんだ。
いつだったか、木兎さんと飲んでいる時にたまたま居合わせて、挨拶程度に言葉を交わした。
木兎さんの同級生って言ってたっけ…。