第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
このカフェには出会いの引力があるのかもしれない。
また、そんなことを思わずにはいられなかった。
大きな年下の彼が、やってきた。
「梨央ちゃん」
懐かしい響きの、その声。
目の前に座るスーツの男性。
黒髪の、ツンツン立てたヘアースタイル。
「わぁっ!てっちゃん!?」
認識するまでに、数秒かかってしまった。
まさかこんな所にてっちゃんがいるなんて思いもしないから、思わず持っていたトレイを落としてしまう程、私は驚いた。
「はい、どうぞ?」
トレイを拾い上げ、苦笑いしながらてっちゃんが私の前に立つ。
嘘…懐かしい、嬉しい、何か雰囲気違う…。
「てっちゃん久しぶり~っ!」
思わず抱きついてしまった。
欧米か!って感じに。
でもてっちゃんは相変わらず余裕綽々で、「梨央ちゃん元気そうだねー」なんて言いながら笑う。
久しぶりの再会が本当に嬉しくて、仕事終わりに二人で飲みに行くことに。
週末は修一さんの家に泊まりに行くことが多い。
泊まって、彼の家から仕事へ。
彼の家がここから近いから、問題なくそうしてる。
でも、今夜は接待だって言ってた。
たぶん、今日は会えないって。
それなら、終電まで飲んでもいいよね。
コックコートを脱いで、私服に着替える。
あ…癖でつい、スカート履いてきちゃった。
ロッカーの中の鏡で、自分を覗く。
仕事中は、いつも最低限のメイクしかしてない。
バッグからポーチを出して、軽くファンデを塗り直す。
ビューラーとマスカラ。
それから、ベージュピンクのグロス。