第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
修一さんに送り出され、私は二駅先の自分の家へ向かう。
昨日から、修一さんに振り回されっぱなし。
私に不満があるの?
私に足りないものがあるから?
そりゃ、完璧な女だなんて思ってないけど…。
修一さんの理想に近づくよう、努力が必要ってこと?
"努力" ―――。
私には、それが足りないのかな。
修一さんの怒りのツボはよくわからなくて。
それから三ヶ月付き合っているけど、怒らせてしまうことがしょっちゅう。
その度に、自分のダメさにへこむ。
憧れていた人に振り向いてもらえた。
だから、私が努力しなくちゃ。
中身が未熟なら、まず外見だけでも。
彼と会う日はスカート。
カーキとチャコールグレーが嫌いだから、彼の前では着ない。
プレゼントしてくれたパールのピアスは必ずつけて。
それから私は、髪を切った。