第6章 マイ・スイートハート ※【赤葦京治 続編】
名残惜しい気持ちは大いにあるが、何とか唇を離し、汐里を抱き寄せた。
「続きは、家に着いてからね」
肩越しにコクンと頷くのがわかる。
顔を傾けてみれば、瞳をたっぷりと潤ませた汐里がいた。
目が合うなり恥ずかしそうに唇を結んで笑い、俺の肩に顔を埋めてしまう。
…どこでそういう仕草覚えるわけ?
必死で抑えたものがまた暴れ出しそうで、非常に困るんですケド。
汐里と付き合い始めてからというもの、結構な頻度でこういう目にあう。
明るく元気なのはもちろん変わりないが、ひとたび色めいたムードになると途端に女の子全開になるのだ。
体にすり寄ってきたり、煽るような台詞を口にしたり、甘えた声を出してみたり。
こんな汐里を知ってしまったら、愛しい気持ちは膨れ上がるばかり。
ところ構わず欲望が顔を出し、それを押し込むのに酷く苦労する。
ゆっくりと身を起こし体勢を整える汐里が、バッグに手を伸ばした。
「今日バレンタインだからね、京治さんにプレゼントがあるんです」
「良かった。実は期待してた」
俺の返事を聞いて微笑む汐里。
手に取ったのは、綺麗にラッピングされたバレンタインのプレゼント。
「味見したから大丈夫だと思うけど…」
「もしかして、手作り?」
「はい。…やっと、渡せます」
肩を竦め、はにかみながらも眩しい笑顔を浮かべて、俺の前にそれを差し出した。
「受け取ってください。私の気持ち…
3年分の大好き、です!」
胸の奥が、ギュッと鳴るのがわかった。
こんな風に無邪気に笑っているけれど、きっと沢山辛い思いをさせた。
もしかして、泣かせてしまったこともあるかもしれない。
「なーんちゃって!何か歌のタイトルみた…、い…」
さっき手離したばかりの体を、プレゼントごと抱き締めた。
「ありがとう、汐里…。俺も、大好き」
湧き上がってくる気持ちをひとつ残らず伝えたいのに…。
まるでその手立てがないかのように、これだけしか言えない。
胸が詰まって言葉が出てこないなんて、初めてだ。