第6章 マイ・スイートハート ※【赤葦京治 続編】
バレンタイン前日の夜、梨央さんが教えてくれたとおりケーキ作りに取りかかる。
一度練習もしたから、きっと大丈夫。
梨央さんのレシピは失敗しないポイントも書いてくれてあって、すごく分かりやすい。
やっぱり相談してみてよかった。
心の中で感謝しつつ、ダイニングの椅子に座り焼き上がるのを待つ。
三年前もここでバレンタイン用のトリュフを手作りしたっけ。
京治さんが遥さんと付き合ってることを知って、結局渡すことが出来なくて。
泣きながら自分で食べた。
あの頃を思うと、本当に今が信じられない。
焼き上がったパウンドケーキは、見た目も味もなかなか。
よかった、失敗しなくて。
…と、思ったんだけど。最後の最後で不器用さを発揮…。
切り分ける時に微妙に潰れてしまったし、気のせいか厚さも不揃い…?
「大丈夫だよね…?京治さんなら、きっと食べてくれるもん」
少しでも綺麗に見えるよう角度を工夫し、丁寧にラッピングをして出来上がり。
喜んでくれるかな?
早く会いたい…。明日が、待ち遠しい。
迎えた、2月14日。
会うのはお互いの仕事が終わったあと。
一緒に夕食を食べ、今夜は初めて京治さんの家にお邪魔する。
ソワソワしながら一日仕事に没頭し、下ろしたてのワンピースに着替え、メイク直しもきちんとして身仕度を整えた。
京治さんは今日車で出勤したらしく、駅前で待っていてくれる。
寒さの中、肩を竦めながら足早にその場所へ。
見覚えのある黒い車を見つけ、助手席の窓を控えめにノックすれば、ナビのディスプレイの光に照らされた顔がやんわり綻んだ。
「お疲れ」
「お疲れ様です。ありがとうございます、お迎え」
車内に満たされた暖かな空気は、冷えた体を解してくれる。
助手席に座り、ホッとひと息。
「冷たくなってるね…」
京治さんの手が私の指に絡んで包み込んでくれる。
それに応えるよう、私からもキュッと握り返した。
寒いのが苦手な私だけど、京治さんが温かいから今は平気。
今夜はサヨナラしなくていい。
朝まで、一緒―――。