第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
放課後。
あと卒業式を待つだけで暇な俺は、いつもならバレー部に顔を出している。
でも今日は止め。
女子に呼び出されたり待ちぶせされたりを繰り返して、学校にいるのが疲れた。
直接告白してきた子たちを丁重にお断りするのって、結構気ぃ遣う。
さっさと家に帰って自分の部屋まで行き、制服を脱ぐ。
鞄の中には貰ったチョコ。
その中のひとつを手にした。
赤いラッピング。
金色のリボン。
開けてみると、中には茶色い……何つーんだっけ?
とにかくチョコのケーキのミニ版だ。
それを摘んでひと口かじる。
甘過ぎなくて、美味い。
「さすが。プロ目指すだけあるねー」
お菓子作りが好きだった梨央ちゃんは、この二年、パティシエを目指して製菓学校に通っていた。
学校帰りに会う時、梨央ちゃんからはほんのり甘い匂いがする。
四月からはどこかのホテルに就職するらしい。
好きなことを仕事にするって、覚悟もいるんじゃねぇかと俺は思う。
でもそんなこと梨央ちゃんはわかってると思うし、それも含めてやっぱり大人だ。
「ちょっと走るか…」
部活に顔を出せなかったし、今日は体育もなかった。
体を全く動かしていない日は何だか気持ちが悪い。
前にそれを研磨に言ったらゲンナリした顔で見られたっけな。
近所には割と広めの公園があって、そこを回り込みながらジョギングしていく。
昔からトレーニングしてきた、走り慣れたルート。
走り始めてどのくらい経っただろう。
向こうから知った顔が歩いてくる。
今日は何故か、頭から離れなかった顔。