第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「クロおはよう。はい、これチョコね!」
「おー、サンキュー。何?お前俺のこと好きだったの?」
「あははっ。義理の中の義理ですぅ」
教室に入って、クラスメイトからチョコを貰う。
こんな風に冗談言い合える相手ばっかなら、バレンタインも気楽なもんだ。
でもそうじゃない相手に関しては…なんつか、気持ちは嬉しいけど、それだけ。
机の中にはそれぞれ違うラッピングのチョコが四つ。
「何でクロそんなモテんの?俺なんて小学生の頃もらったのが最後だし!」
後ろの席の奴に覗き込まれる。
「何でかねぇ…。紳士だから?」
「紳士!詐欺師の間違いだろ!」
自分で言うのも何だけど、モテる方だとは思う。
彼女がいた時期は、それが原因でケンカになったこともあった。
梨央ちゃんは、どうだろう。
モテる…よな?
あの容姿と性格なら。
誰か本命の男にあげるのか?
彼氏―――いるんだろうか。
今朝会ったからか、梨央ちゃんのことばかり考えちまう…。
気になる存在―――だけど、付き合いたいとかそんなことは思ったことなくて。
というか、この時の俺には恋愛対象としては非現実的で。
だけどきっと、特別だった。
好きとか、恋とか。
そんなんとは違う、特別な存在。