第6章 マイ・スイートハート ※【赤葦京治 続編】
駅に差し掛かる寸前で、私は足を止めた。
「赤葦さん、お家…今度お邪魔してもいいですか?」
「…うん。汐里が大丈夫だと思えるようになるまで、待つよ」
「ううん、そうじゃなくて…」
また怖じ気づいたと思われたみたい。
全然そうじゃなくて、むしろ、その逆。
「早く二人きりになりたいの。あそこじゃ、ダメ…?」
駅とは反対方向の、路地を抜けた先。
この周辺にそういう建物は一軒しかないし入ったことはないけれど、外観は悪目立ちせずシンプル。
私の指し示す先を確認した瞳は、ゆったりとこちらに戻ってくる。
「まさか、ラブホに誘われるなんて思わなかったな」
やだ、はしたない女だと思われた…?
「エッチだね、汐里」
やっぱり!?
からかうように顔を覗き込んでくる。
「イジワル…」
「エッチな汐里、大歓迎。行こう」
今度はその言葉に反応する隙もなく、二人の指と指が絡まった。
薄暗い建物の中に入り、シンとしたラブホ特有の雰囲気に包まれる。
「どの部屋にする?」
「えっ…と、お任せします」
「じゃ、ここにしようか。雰囲気いいし」
赤葦さんは迷うことなく、空室の中で一番いい部屋を選んだ。
「ちょっ、高くないですか!?」
「そういうことは言いっこなし。俺たちの初めてなんだから」
鍵を受け取った赤葦さんに促され、エレベーターに乗る。
やだ…すっごくドキドキしてきた。
でも私、何だかおかしい。
こんなに緊張してるのに。
ついさっきまで、こうなることが怖かったはずなのに。
早く赤葦さんに触れたい、触れて欲しい、なんて…。
開かれた扉の向こう側。
そこは思っていた以上に広い空間。
アジアンリゾートのコテージのような造りだ。
使われているインテリアもリネンも、ダークブラウンで統一されている。
室内を淡く照らす暖色のライトがシックで、大人の雰囲気。
広々としたベッドは天蓋付きだけれど、華美ではないから品がある。