第6章 マイ・スイートハート ※【赤葦京治 続編】
「赤葦さん、好き…」
「…うん、大丈夫。わかってるよ。俺こそ、ごめん」
「え?」
見上げた先の赤葦さんの瞳には、申し訳なさそうに影が落ちていた。
「ちょっとプレッシャーだったかな…って。家に来い、なんて」
そんな…
違う…、違う…!
「謝らないでください!赤葦さんが謝ることなんて何もない…。私、嬉しかった。本当に…」
「…うん」
「あの、ね…。聞いてほしい話があって…」
ちゃんと赤葦さんの目を見て、それを切り出す。
ずっと胸に抱えていたこと…。
「話…?」
「はい…。あんまり聞きたくない話かもしれないけど。でも、私の気持ちを知ってもらいたくて…」
「うん、聞かせて?」
優しい声と共に、私の手を包み込んでくれる。
まるで安心させるみたいに。
もう一度大きく肩で息を吐いて…
そして私は、打ち明ける。
「私…胸に傷があるんです…」
「…傷?」
「はい。手術の、跡」
鎖骨の下辺りから縦に一直線。
心臓の手術の、傷跡。
私のコンプレックス。
「…そっか」
赤葦さんは思い出したように、小さく頷いた。
「前の彼の話…、なんですけど…」
「うん」
元カレの話なんて…と思いつつ赤葦さんを窺えば、そこにあるのは私の声に耳を傾けようとしてくれる真剣な瞳。
内心ホッとしながら続ける。
「病気のことも、昔手術したことも、話してなかったんです。それで、話さないままいざそういう雰囲気になった時…」
何年も経っているのに、今でも覚えてる。
「…彼、ビックリしちゃったみたいで。
"できなかった" んです…」
裸の胸元を見て顔をしかめた、元カレの姿。
「謝ってくれたけど、それは彼が悪いわけでも何でもなくて…。私がちゃんと話をしなかったのも、いけなくて…」
話していれば違ったかも。
ずっとそう思ってきた。…ううん、そう思いたかった。
赤葦さんは、ただ黙って私の話を聞いてくれている。
「結局気まずくなって、その人とは別れちゃいました…」
脱がされたばかりの服を今度は自分自身で纏い、私は彼の部屋を出た。
その時の情けなさと、彼に女として見てもらえなかったような悲しさは、今も心に居座ったまま。