第6章 マイ・スイートハート ※【赤葦京治 続編】
家の前でキスされたことなんて、初めて。
赤葦さんはちゃんとした人だから。
親や近所の人に見られたら私が気まずくなる…だとか、恐らくそんな風に考えてくれていたんだと思う。
でも…
唇が触れる間際、一瞬だけ見せた不安げな瞳。
そしてその瞳を隠すみたいな、小さなキス。
今日の赤葦さんは今までとは違っていて…
一人になり、バッグから鍵を取り出し玄関のドアにそっと差し込む。
これで良かった、なんて思えない…。
私、また一人でウジウジ考えてる。
悪い癖…。自分でもわかってる。
今、私たちは二人なんだから。
片想いじゃなく、赤葦さんと私は想いを通わせているんだから。
だったら、大切なことは言葉にしなくちゃ。
わかってほしいなら、話さなきゃ。
私が黙っていることで誤解させたり赤葦さんを傷つけたり…
そんなの、嫌。
"大事なことはちゃんと話そう"
この前赤葦さんと約束したばかり。
このまま別れていいわけない。
鍵をまたバッグへ戻して代わりにスマホを手に取る。
逸る気持ちで画面をタップし、赤葦さんへ繋ぐ。
『…もしもし?』
電話越しに聞こえてくるのは、柔らかくて穏やかな声。
私の大好きな人の声だ。
「赤葦さん…」
『どうした?』
「まだ駅、着いてないですよね?」
『うん。歩いてる途中だけど』
「待っててもらえますか?今から行きます!」
返事も聞かず電話を切り、駅に向かって走り出した。
真っ直ぐ進んだ先、突き当たりの角を曲がる。
遠目に見えるのは、私の家の方へ戻ってくる赤葦さんの姿。
そのままの勢いで駆け寄って腕を伸ばし…
「!?」
思いっきり抱きついた。
「汐里…」
戸惑いがちに私の名前を呼ぶ声がする。
広い肩に頭を預け、一度だけ大きく深呼吸。
その合間には温かな手のひらが髪を撫でてくれる。
赤葦さん…
ねぇ、赤葦さん。
私、あなたとずっと一緒にいたい。
このまま、ずっと、ずっと…。
だから、聞いて…?