第6章 マイ・スイートハート ※【赤葦京治 続編】
少し真面目な話にもなりつつ食事を終えて、帰りの電車に乗る。
帰りが遅くなった時、赤葦さんはいつも同じ駅で降りて私の家まで送ってくれる。
本来ならば、赤葦さんの降りる駅はもう少し先。
申し訳なく思って最初は断っていたんだけど、心配だからって結局一緒に帰ってくれる。
夏に行った花火大会。
私が変な男に付き纏われたから、きっと気にかけてくれてるんだと思う。
心苦しく思う傍ら、少しでも長く居られることはやっぱり嬉しくて。
こんなことを思うのは勝手かな。
繋いだ右手がもうすぐ離れてしまうと思うと、やっぱり寂しいの…。
「ありがとうございました、送ってくれて」
「ううん。今度は、ゆっくり会おう」
「はい」
辿り着いた我が家の前。
静まり返っている近隣に配慮しつつ、少し小さめの声で挨拶を交わす。
あとは「おやすみなさい」って言って別れるのが、いつもの私たちなんだけど…。
「赤葦さん?」
私の手は、温かな体温に包まれたまま離されそうにない。
別れを惜しんでくれてる?
赤葦さんも同じなのかな。
そうだとしたら、すごく嬉しい。
次に会えるのは二週間後。
今度はお互い休みだから、お出掛けしようということになってる。
少し先だけど、それまでは我慢…。
赤葦さんを見つめ返しながら離れがたい気持ちでいると、その唇が静かに沈黙を割った。
「汐里。今度、俺んち、おいで?」
「……」
赤葦さんの……家……。
彼の言う意味がわからないほど、子どもでも鈍感でもない。
私たちはまだ、"そういう関係" にはなっていない。
もっと深く愛し合いたい。
きっと私と同じ気持ちでいてくれているからこその言葉だと思う。
もしあなたが抱いてくれるなら、私は幸せの海で溺れてしまうかも…。
嬉しい…
二人の気持ちが通っていることが。
でも、私の中には別の感情も潜んでいて…
上手く言葉が出てこない。
それでも赤葦さんを拒む気持ちなんてないことだけは伝えたくて、ただ、無言で頷いた。