第5章 glass heart【赤葦京治】
彼の手が、ドアの鍵を閉める。
カチャッという、日常の中ではありふれたその音。
なんだかそれが、今は酷く寂しい音に感じてしまって仕方がない。
「じゃあ、行くね」
「ん…」
こんなとき、何て言ったらいいの?
"元気でね" ?
それじゃあ、まるでもう会えなくなっちゃうみたい。
"またね" ?
それって、私が言うのは図々しい?
上手く言葉を選べない私。
「チョット」
「え?」
「最後なんだから、そんな変な顔しないでよ」
呆れた瞳と、少し素っ気ないツッキーの言い方。
だけどそれが妙に優しくて…
私の涙腺を簡単に刺激してしまう。
「最後なんて、言わないで…」
こんな台詞はズルいのかな…。
また、"無神経" って怒られちゃう?
でも、他に気の利いた言葉なんて見つからない。
眉間に皺を寄せるツッキー。
ああ…また私、彼の神経を逆撫でしてしまったんだ…。
そう、頭が判断したとき。
「ごめん…、こんなこと、これっきりにするから」
そっと手を引かれ、私の体はツッキーの腕の中に閉じ込められてしまった。
「誰のせい、とかじゃないよ。強いて言えば、自分のため。だからそんな顔やめて」
耳元に顔を寄せ、言い聞かせるようにそう言ってくれる。
温かい体温と、体に感じる鼓動の音。
そして、ツッキーの思いやり。
じわりと、目尻に涙が滲む。
「ツッキー…」
「蛍、だよ」
「蛍…くん…」
「うん」
「私、蛍くんに会えて良かった」
「ん…。僕も」
初めてツッキーを名前で呼んだ。
些細なことだけど、今の私にとっては、すごく大切。
「蛍くん。
私のこと好きになってくれて、ありがとう」