第5章 glass heart【赤葦京治】
*夢主side*
赤葦さんに、想いが通じた。
私のことを、好きだって言ってくれた。
全く現実のような気がしない。
全部夢なのではないか?って、ほんの少し怖くなる。
でも、夢ではない確かなもの。
赤葦さんとのキス。
あの日のことを思い出すと、自分の顔がみるみる熱を持っていく。
肌触りのいい柔らかなマフラー、抱き締めてくれる温かい腕。
そして…熱いキス。
どんな時でも冷静な人だと思ってた。
道端でキスなんかするイメージもなかった。
でも、あの時の赤葦さんは何だか情熱的で…
私にくれる台詞だって、赤葦さんだけど赤葦さんじゃないかのようで。
初めて見せてくれた、もう一人の赤葦さんの顔。
もっともっと、好きになった。
そして蕩けるようなあの夜のキスは、数週間経った今でも私の思考を度々停止させる。
「おーい、姉ちゃん!」
「…………ん、何?」
「囲碁見てんの?」
休日の昼下がり。
だらりとリビングのソファーに体を預け、もう何度目かの回想に耽っていると、大声で現実に引き戻された。
声の主は、我が弟。
テレビでは淡々とした解説と共に、碁盤に並べられた白と黒があちらこちらに動いている。
「…見てない」
「だよな。この前録った映画観ていい?」
「うん」
目の前のリモコンを、海斗に渡す。
「これ、エアコンのリモコン」
「…ああ、ごめん」
テーブルに置かれたままのテレビのリモコンを、もう一度手渡した。
「わっかりやす!誰のこと考えてたんだか!」
「…はい?」
「俺見ちゃったもんね~!」
「何?」
憎たらしい顔を作り、フフン、と上から私を見下ろしてくる海斗。
「この前、誰かに家まで送ってもらってたろ?背の高い男!」
「!」
「彼氏?」
"彼氏" とか…!何て恐れ多い響き…。
「…そう、かな」
「なに、そのハッキリしない感じ」
「あんまり実感なくて」
「へー。何かカッコよさげな人だったよな?暗くてよく見えなかったけどさ。いつから付き合ってんの?何してる人?歳は?」
リモコンを操作する傍ら、海斗は赤葦さんのことを詮索してくる。