第5章 glass heart【赤葦京治】
「赤葦さんでも、そんな顔するんですね」
「……」
「ちょっと満足」
煽りや皮肉が上手く効いた時のような、月島のしたり顔。
実際、月島の思惑どおり。
こいつの煽りに焦燥感を覚えてしまったのは、事実なのだから。
でもその根底にあるのは、きっと汐里を想う気持ちだ。
俺のためじゃなく、汐里のため。
汐里を笑顔にしたいと願う、月島の真っ直ぐな恋心。
冷めているように見えるけど、こいつの内にある熱は俺の想像なんて遥かに超えている。
その表情から真意は読めない。
ただ、これだけは言える。
"ありがとう" も、ましてや "ごめん" なんて、口には出せない。
月島の性格は程々にわかっているつもりだ。
俺からそんな台詞、言われたくはないだろう。
だから…
「生意気な後輩」
俺なりの、恋敵への感謝の気持ち。
「それほどでも」
月島は、また満足げに口の端を上げた。
「もう一杯あるんですけど。飲みます?」
「ああ、もらう」
視線の先には、シュワシュワと気泡が湧き上がるアルコール。
グラスを受け取り、お互い黙ってそれを口にした。
「ツッキー、俺の梅酒は~?」
「今飲んでます。赤葦さんが」
「はん!?ちょ、あかーし、酷い!」
「そうだ木兎さん。ガリガリくんの酢豚味、買ってきましたよ」
「それ激マズのヤツ!!何で買ってきたの!?赤葦俺のこと嫌い!?」
「あー…、大丈夫です」
「大丈夫とは!?」
木兎さんが騒ぎ始めたため、俺は本職(木兎さんのお世話係)に戻ることにする。
なんだかんだ言いはするが、この人がいるから和やかな雰囲気を保てるというものだ。
リビングに入り、もうひとつ木兎さん用に買ってきたチョコアイスを差し出してみる。
途端に機嫌を取り戻す、末っ子気質の先輩。
そばにいる汐里に目配せすれば、春に咲く白い花のように愛くるしい笑顔を見せてくれた。