第5章 glass heart【赤葦京治】
寒空の下から、適度に空気の暖まった室内へ。
廊下を抜けた先のドアを開けると、リビングでは木兎さんがバラエティー番組を見て爆笑し、左手のキッチンでは月島がリキュールを手に酒を作っていた。
「マフラー、ありがとうございました」
「ああ、持ってていいよ。帰りも使って?」
さっき貸したマフラーを丁寧に畳んで差し出してくる汐里に、柔らかく首を振った。
今までの汐里ならここで遠慮しそうなものだが、少し躊躇いながらもはにかんだ笑顔で頷いてくれる。
「じゃあ、お借りします…」
「うん」
何だかそれが俺に甘えてくれているようで、こんな些細な変化でも頬が緩む。
「おお!おかえり~!サンキューな!」
そこに飛んできたのは、木兎さんのよく通る声。
「いいえ。光太郎さんは肉まんとピザまんと…、あと何でしたっけ?」
「チータラ!」
「あ、そうそう」
コンビニ袋から木兎さんリクエストのものを取り出し、汐里はリビングへ。
俺は買ってきたアルコールを冷やすため、冷蔵庫を開く。
そんな俺の背中に、いつものローテンションな声がぶつかった。
「やっと、くっつきました?」
「え?」
「汐里のあの感じ。そういうことじゃないんですか?」
バースプーンでグラスの中の酒を回しながら、月島は俺に視線を寄越す。
「……"やっと"、って?」
「二人が両想いなの、とっくに知ってましたから」
出来上がったソーダ割りをひと口飲み込むと、シンクに腰を預ける月島。
微かなため息のあと出てきたのは、思いもよらない言葉。
「この前病院で話したとき。あの時点で、僕もうフラれてたんですよね」
「……」
は…?
じゃあ、もしかして俺…
月島に焚き付けられた…?
嫉妬や焦りを抱えつつ今日まで一人悶々としていたことを思うと、自分の眉間に深く皺が刻まれていくのがわかる。