第5章 glass heart【赤葦京治】
遥のこととか、月島のこととか。
辛い気持ちにさせたり、嫉妬したり、もどかしくなったり、自信をなくしたり、臆病になったり。
目まぐるしいくらい、色んな気持ちを抱えてきた。
全ては、ここに辿り着くための出来事だったんだと思う。
俺を見つめる汐里。
その瞳を見ればわかる。
見ない振りをしたこともあったけれど、俺の視界の端には、いつも君が映っていたから。
俺と、汐里。
今、同じ気持ちでここにいる。
そう思って、いいだろ?
湧き上がる何かを解き放つ寸前、汐里の指先を握った。
どこでもいいから、触れていたい。
見つめていたい。
俺の想いを、受け止めて欲しい。
汐里が手を握り返してくる。
その瞳は揺らめいていて、吸いまれそうなほど綺麗だ。
「赤葦さん…、私…」
少し上擦った声に、震える長い睫毛。
汐里が何を口にするか、わかる。
「私、赤葦さんのこと、好っ…」
片手で肩を抱きすくめ、顔を寄せた。
もう、愛おしくて堪らない。
これが、俺の気持ちだよ。
想いを届けるように…
二つの唇を、重ね合わせた。
ゆっくりそこから離れると、目を丸くした汐里が俺を見ている。
「な…、に…?今の…」
「キスだけど」
「それは…わかってて…」
「好きだから、したくなった」
「え…、え?」
「汐里のこと、好きなんだ。もう、とっくに好きになってた。だからキスした。ごめん、言葉より先に手を出すなんて初めてで、ちょっと自分でも混乱中。だけど、汐里がそんな目で見るから。汐里のせいだよ?」
……
ヤバイ…
何か俺、焦ってる…。
思わず早口になってしまった、言い訳がましい言葉の数々。
いきなりキスした上、汐里に責任転嫁。
何だよ、これ…
全然余裕がない…。