第5章 glass heart【赤葦京治】
送り出してくれたツッキーのことを思いつつ、覚悟を決める。
告白する。今から。
"あなたのことが好きです" って―――。
「赤葦さん…っ!」
マンションのエントランスを出た、遊歩道の先。
彼はいた。
「汐里?」
少し驚いたような顔で足を止め、駆け寄る私を待っていてくれる。
「私も一緒に行きます」
「…うん」
隣に並んで、一歩前へ。
コツンとひとつ私のヒールの音が鳴る。
「待って」
「え?」
二歩目は、彼の大きな手に腕を掴まれ踏み出せなくなってしまった。
首からマフラーを外す、赤葦さん。
チャコールグレーのカシミヤのマフラー。
出会って間もない頃、貸してもらったことのあるマフラーだ。
今日のように寒い、冬の夜の出来事だった。
あの日、外したマフラーは私の手の平にそっと乗せられただけだったはず。
それなのに、今は…
「病み上がりなんだから、温かくしなきゃダメだよ」
私の首に、ふわりと掛けてくれる。
こんなにも近くにあなたがいる。
丁寧にそれを巻いてくれた後は、ただ黙って私を見下ろしているだけ。
「ありがとうございます…」
近づいた距離は、そのまま。
マフラーに掛けられた手も、そのまま。
どうしてそんな瞳で私を見ているの?
私、もう…
堪らなく、この人が好き…。
「赤葦さん…」
「汐里。少しだけ、俺の話聞いてくれる?」
溢れそうな気持ちを思い止まらせるみたいな、赤葦さんの声。
思わず緊張が走り、ぎこちなく頷いた。
「この前の…遥のこと。ごめんね、本当に」
「…いえ。それは、もう」
遥さんの名前が出るだけで、身構えてしまう。
何だか先を聞くのが怖くなってきた…。
「遥さ、妊娠してたんだ」
「…え?」
目と目が合うと、赤葦さんは小さく微笑む。