第5章 glass heart【赤葦京治】
私たちの家のそば、駅近くのカフェ。
ツッキーを呼び出して話をしたのは、数日前。
思えば私たちって、顔を合わせれば憎まれ口ばかりだった。
嫌味言われたり意地悪言われたりして、腹が立ったことも。
でも、ちゃんとわかってた。
ツッキーは優しい人だって。
ただ、素直じゃないだけ。
あなたのこと、好きだよ。
ツッキーの気持ち、本当に嬉しい。
でも…
でもね…?
『いっぱい考えたよ、ツッキーのこと』
『うん』
彼の綺麗な瞳は、真っ直ぐ私に向けられる。
それはこれから私の言う台詞をわかっているような、何かを悟っているような…
そんな瞳に見えた。
『私ね、ツッキーのことは大事な友達だと思ってきたの。これからも、それは変わらない。
好きだけど、友達としての "好き" 。
私は恋してる人としか付き合ったりできなくて…
その恋してる人っていうのは…やっぱり、赤葦さんなんだ』
ツッキーは小さく息をつくと、そこで初めて私から目を逸らした。
『そうだろうね…。わかってたよ、汐里の答えは。最初から』
『え?』
『脈があると思って気持ち伝えたワケじゃないから』
『じゃあ、何で…』
改めて交わる、私たちの視線。
『一瞬でもいいから、汐里の心の中を僕で埋めたかったんだよ』
その言葉で、涙が出そうになった。
こんなにも想ってくれているのに、私は気持ちを返すことができない。
でも、言わなきゃ。
初めて正面からぶつかってきてくれた彼に、私も正面から応える。
それが、ツッキーに対して誠実であるということだと思うから。
『私も、脈があるとかないとか、関係ない。
赤葦さんの気持ちが誰に向けられていても、それももう関係ない。
ちゃんとこの恋にケジメつけるから。
私の気持ち、赤葦さんに伝えてくる』
目の前のティーカップを口に運んだあと、ツッキーは小さく笑う。
『やっとその気になったんだ。ま、頑張ってみたら?』
言い方はいつもどおりなのに、ちゃんと優しさが潜んでいるから不思議。
『うん…。
ありがとう、ツッキー。
私を、好きになってくれて…』
真っ直ぐに私を見てくれた彼の目元は、柔らかく、弓なりに形を変えた。