第5章 glass heart【赤葦京治】
座るか座らないかのうちにプルタブを開け、それをひと口煽る。
「あぁっ!」
「…何?」
「レモンチューハイ、私も飲みたかったのに!」
「知らないし。飲まれたくなかったら名前でも書いときなよ」
呆れ顔で汐里に視線を送りながらも、月島はその手の中にある缶を差し出した。
「あげる。まだひと口しか飲んでないから」
「え?」
「ナニ?間接キスとか意識してんの?」
「してない!」
「じゃあ、ドーゾ」
シレッとした月島とは対照的に、汐里の頬は赤い。
何だ、これ…。
汐里を煽ってんのか、俺を煽ってんのか、どっちだよ?
黒いものが俺を掻き乱していく。
それを知ってか知らずか、まだ月島と汐里のやり取りは続く。
「一度言いたかったんだけどさ、いつも買い物し過ぎだよね。大量パックの肉とか、一度に牛乳三本とか。持てる量考えなよ」
「ツッキーなんてお惣菜とお酒ばっかじゃない。おかずお裾分けしてあげようか?」
「いらない。お腹壊すの嫌だ」
「壊さないし」
こんな風に憎まれ口叩き合うのは、いつものこと。
何年も前から…何なら、初めて会った合コンの時からそうだ。
それなのに、今日は何か…
すげぇ、イラッとする。
思わず、ラグの上にある汐里の手を包んだ。
視線は送らない。
あくまでも、月島と木兎さんには気づかれないように。
汐里は驚いたようにピクッと小さく指先を跳ねさせた。
そろそろと俺の顔を窺うが、すぐにそれはテーブルの上に戻っていく。
拒絶されないことに安堵した。
重ねた手に、どうか伝われと、気持ちを込める。
俺のことも見てよ。
「あれ?もしかして、もうツマミねーの?」
「木兎サン、食べ過ぎじゃないですか?」
「えー?だってさっきの肉、量が少なかったじゃん?腹減るし!」
「は、肉?量が少ないとか知らないんですケド」
大きく息を吐く。
何イライラしてんだよ、俺は。大人げない。
ちょっと頭冷やそう…。
「買ってきますよ。ちょうどデザート食いたかったんで」
汐里から手を離し、コートとマフラーを引っ掴む。
素早くそれを身に付け、俺は一人、木兎さんの部屋をあとにした。