第5章 glass heart【赤葦京治】
"自分に自信がなくなる" ……。
黒尾さんに向けられた、汐里の言葉。
まるで俺に言われているようだった。
いや、実際そうなのかもしれない。
俺のしたことが、汐里をそんな気持ちにさせてしまったということだ。
ふいに思う。
月島なら俺みたいな傷つけ方はしない。きっと。
どう考えてみても、女性に対して曖昧な態度をとるタイプではないだろう。
汐里もあいつに対しては不満を溜め込んだりしないだろうし、自分を押し込めて我慢する…なんてこと、ないんだろうな。
相性という意味では、汐里と月島は妙にしっくり嵌まっているような気がしてしまう。
今までの二人を見ていればわかる。
俺に見せない顔を、月島には曝け出す汐里。
俺は…月島に嫉妬している。
「俺たち、もうダメかも…」
黒尾さんらしくない。こんなに落ち込んでいるのも、その姿を俺たちに見せるのも。
「はぁ!?なーにしょぼくれてんだ、ヘタレ!諦めんなよ!」
「テツさんでもそんな風に落ち込むんですね。案外普通の人間だったんだ」
手厳しい激励の言葉を残し、二人はドリンクを取りに席を立つ。
大きくため息をつく黒尾さんに、少し同情する。
今の俺には、理解できてしまう部分もあるから。
「俺は気持ち、ちょっとわかりますけどね」
「え?」
「嫉妬で余裕なくなる気持ち、です」
「…何?お前ほんとに赤葦?」
「俺も案外、普通の人間なんで」
時に能面とか鉄仮面とか、サイボーグだとか揶揄される俺だけど。
どうやら、汐里に関してはそうはいかないらしい。
君の前では俺も、ただのつまらない男だ。