第5章 glass heart【赤葦京治】
店内の禁煙席に案内され、各々食事を注文する。
俺はオムライス、汐里はパスタ。
木兎さんはチキン南蛮とハンバーグという、肉のコラボレーション。
相変わらず、よく食べる。
程々に食事が減ったところで、木兎さんは黒尾さんにも電話をし始めた。
ちょうど仕事が終わったところらしく、今からここに合流するということだ。
食事を終え、俺と汐里がコーヒーとデザートに手をつけ始めた頃。
黒尾さんは仕事帰りの気だるそうな足取りで、店内に入ってきた。
「よお。お待たせ」
空いている木兎さんの隣に腰掛ける。
「おう!お疲れさん!久しぶりだなぁ、黒尾!」
「お疲れ様です」
「こんばんはー、テツさん」
「おう…」
どうした…?
何か黒尾さんに覇気がない。
心なしか、トレードマークのトサカ頭もヘタッているような…。
木兎さんが近況を振ったことで、その理由が明らかになる。
どうやら彼女である梨央さんと、少し拗れているらしい。
その原因が黒尾さんの女性問題ときたものだから、妙に納得してしまった。
この人には、悪気なく女の人を惹き付ける才能みたいなものがある。
何が梨央さんの不安材料になるか、わかったものではないのだ。
話を聞いてみれば、不慮の事故で同僚の女性とキスをしたとか、しないとか。
更にはそれがきっかけで梨央さんは別の男性といい仲になってしまいそうで、嫉妬に駆られた黒尾さんは、勢いで梨央さんを責め立ててしまった…、と。
拗れに拗れている…。
「でもなぁ…。ヤッてはねぇし、キスも事故みてぇなもんなんだろ?梨央ちゃん、黒尾のこと信じてやりゃあいいのにな。好きな男の言うことなら、信じられるもんなんじゃねぇの?」
木兎さんは素朴な疑問を投げ掛けるように、ドリンクの氷をガリガリとかじった。
まあその言い分もわからなくはないけど、頭で処理出来ることではないんだろうな…。
ショボくれた黒尾さんを眺めながらそんなことを思えば、隣から静かな声が放たれた。
「好きだからこそ、怖くなるんですよ。好きな人のそばにいる女の人が魅力的に見えて、自分に自信がなくなったり。疑う自分が嫌になったり…。テツさんを信じるとか、それだけのことじゃないんです」