第5章 glass heart【赤葦京治】
数日後―――。
仕事のあと、木兎さんから連絡があった。
あの人が思い付きで人を呼び出すのはいつものこと。
都合が悪い時ならもちろん断るのだが、タイミング良く明日は休み。
尚且つ、先日は失礼ながら飲んでいる途中で慌てて帰ってしまっている。
埋め合わせも兼ねて、素直に呼び出しに応じることにした。
寒空の下、肩を竦めて歩く。
すっかり寒くなり、最近では通勤時にマフラーが欠かせなくなってきた。
首の隙間を埋めるようにそれを片手で抑えてみる。
早く落ち合ってどこか店にでも入りたい。
指定してきた場所に到着してみれば、そこには既に周囲の視線を集めている長身の先輩が待っていた。
「すみません、木兎さん。お待たせしました」
その背中に向かって声を掛ける。
「おっ、来たな、赤葦!お疲れさん!」
「お疲れ様で…」
ここまで近づかなければ気づかなかった。
木兎さんの大きな体に隠れた、その子の姿に。
「こんばんは」
「…こんばんは。汐里もいたんだ」
キャメルのトレンチコートに身を包んだ汐里は、寒そうに手を擦りながら頷く。
病院のお世話になったのは、つい数日前。
顔色は悪くなさそうだけど…。
「俺が呼んだの!ちなみにツッキーにも電話したんだけど出ねーんだ。仕事かな?」
月島の名前に一瞬胸がざわついた。
汐里はと言えば、それに反応するでもなくただジッと地面を見ている。
「なぁなぁ、とりあえずさ!腹減った!もう限界!何か食べたい!すぐ食べたい!」
「すぐって言っても、あー…ファミレスならそこにありますね」
「いーよ、ファミレスで!入ろう!食おう!」
先陣切ってそこへ向かう木兎さん。
少し後ろを汐里と並んで歩く。
「この前はありがとうございました」
「いや、それは全然。大丈夫?体…」
「はい。あの時ちょっと睡眠不足も重なってたみたいで…。でも今は大丈夫です」
「そう。よかった」
俺たちの間に、僅かな緊張感が漂っているように思うのは…気のせいだろうか?