第5章 glass heart【赤葦京治】
「電話で聞きました。ここまで連れてきてくださったそうで…。ありがとうございました」
「いえ、とんでもないです」
「あとは私が付いていますので…」
お母さんに続いて、汐里もこちらを見上げ、小さく声を出す。
「ほんとに、遅くまですみませんでした」
「ううん、大丈夫」
まだそばに居たい気持ちはあるけれど、汐里に気を遣わせたくはないし、お母さんと話したいことだってあるかもしれない。
後ろ髪を引かれる思いで、立ち上がる。
「じゃあ、お大事にね」
「はい…。あ…、また、連絡します」
「ちゃんと元気になってからでいいよ」
「はい」
何か物言いたげな汐里が気になりながらも、俺は病院をあとにした。
数時間前、駅で汐里を見つけた時のことを思い返す。
内心、酷く狼狽えた。
冷静になれ、と何度も自分に言い聞かせた。
無事で良かった…本当に。
やっぱり汐里は、俺にとって誰よりも大切な女の子だ。
改めて自分の気持ちを思い知らされる。
そして、俺に対して露にした、月島の気持ちも。
安心感と、揺らぐことのない決意と、焦燥感。
色んな思いが、胸の中で行き来していた。
地面に落ちた沢山の葉が、風に乗りクルクルと舞っている。
落ち着くところのないそれは、俺の心の内とどこか似ていた。