第5章 glass heart【赤葦京治】
「遊園地なんか行っても、ずっとジェットコースターには乗れなかったんですよ?でも手術して治ったあと、初めて乗ることができて。こんなに楽しいものが世の中にあったのか!って衝撃的でした」
その頃を思い出すように、汐里は笑う。
「汐里がジェットコースター好きなのって、もしかしてそれまでの反動?」
「そう!まさにそんな感じです!
普通の生活ができるようになって、世界が変わりました。母も、またバリバリ仕事してるし」
話している声に、うっすら活気が覗く。
その様子に安心感を覚える傍ら、汐里が過ごしてきた過去を思うと胸が詰まる。
健康的なイメージの汐里だけれど、それはあくまでもイメージに過ぎなくて…。
色んな葛藤があっただろうな。
周りの友達と同じことが出来ないというのは、子どもには特に辛いことだと思う。
もちろん、それを支える家族にも苦労はあっただろう。
それに、心臓の手術…。
しかも、中学生で。
「怖かっただろ?」
「え?」
「俺、中二の頃深刻な悩みなんてなかったな。部活のレギュラーキープしなきゃ、とか。勉強との両立がキツいな、とか。健康の上に成り立つ悩みばっか」
「そんな…」
「頑張ったね」
「……」
汐里の瞳がみるみる潤っていく。
掛け布団が引き上げられ、俺からは額と髪の毛しか見えなくなってしまった。
僅かに髪の毛が動くことで、コクコク小さく頷いている様子がわかる。
指先をそっと伸ばし、露になった額を撫でた。
汐里が人に優しいのは、まだ幼いうちから辛い思いを沢山経験したからかもしれない。
コツン、とヒールの音がして振り返る。
「汐里!」
去年の夏、一度会ったきりだけれど覚えてる。
汐里のお母さんだ。
額に触れていた手をそっと下ろした。
「大丈夫?」
「うん、点滴が済めば帰れるって」
「そう…。もう、ビックリしたわ」
「ごめん…」
汐里と短くやり取りしたあと、お母さんは改めて俺に頭を下げる。