第5章 glass heart【赤葦京治】
月島に連れられてやって来たのは、大きなソファーが並べられた休憩用のスペース。
昼間なら診察時間を待つ患者が利用するのだろうが、今は俺たちしかいない。
先に月島が腰を下ろす。
二人分程の距離を空け、俺も同じソファーに腰かけた。
静寂が辺りを包み、空気は酷く緊迫している気がする。
「汐里って、損するタイプの人間ですよね」
「……」
「真っ直ぐならそれを貫けばいいのに、人の気持ち考え過ぎて、自分抑えて、取り繕って。そういうとこ、見ててずっとイライラしてました」
静かに息を吐く月島。
視線は自分の足元に向けられている。
他人には基本無関心の月島だからこそ、思う。
そこまで汐里のことを見ている時点で、彼女を意識している証拠だ。
「計算高い女なんて沢山いるんだし、汐里もそんな風にズルく生きればいいのに…って。
それなのに、無理して笑ったり、影で泣いたり、僕の失言に怒ったり。
それは全部、一人の男の人のためで…」
言いたいことが、核心に近づいていく。
色素の薄い瞳は、足元から俺の顔まで、ゆっくりと動いた。
「そんな風に想われてるあなたに、嫉妬してることに気づいたんです」
「……月島、」
「汐里は、自分自身を必死に守ってます。心が壊れないように。
もし汐里と元カノとの間で揺れてるんだとしたら、キッパリ振ってあげてください。それが汐里のためです。
後のことは、僕が引き受けるんで」
こんな月島は、初めて見る。
俺を見据え、目を逸らすことなく、芯の通った声で告げられた言葉。
これはまるで、宣戦布告―――。
「好きなんだな?汐里のこと」
俺も同じように、月島の瞳と真っ直ぐ向き合った。
逸らせないし、逸らしたくない。
「好きですよ」
……驚いた。
自分の気持ちを、こうも簡単に口にする月島ではないと思っていた。
それだけ本気だということか。
やっぱり、考え過ぎでも思い違いでもなかった。
今、月島が口にした言葉が全てだ。