第5章 glass heart【赤葦京治】
仕事が終わり帰宅したところで、何よりもまずスマホを手に取る。
今日一日仕事に意識を向けながらも、ずっと汐里のことが気掛かりだった。
時刻はもうすぐ22時。
きっと家にはいるだろうし、就寝するにはまだ早いはず。
今朝送ったメッセージに返信はなかったけれど、既読は付いている。
発信履歴の一番上、汐里の名前をタップした。
どうか出てくれるようにと願いながら。
『もしもし』
数回のコールのあと耳に届く、小さな声。
繋がった電話にホッとしつつ話を切り出す。
「今、いい?もう家?」
『はい、大丈夫です。帰ってきてるんで』
「そう…。昨日は、ごめんね」
『いえ、ほんと、気にしないで下さい』
「ありがとう。…あのさ、汐里に話があるんだ。電話じゃなくて、会って話したい」
『話…』
「うん。いつなら空いてる?」
本当なら今日にでも会いたいところだけど、時間も遅くなってしまうし、汐里の都合のいい時に。
そういうつもりで尋ねてみるが、聞こえてきたのは沈黙を埋めるような唸り声。
『えーっと…、あの…。…しばらく、会う時間は作れそうになくって…』
「……」
『すみません…』
「…いや」
『落ち着いたら、私から連絡してもいいですか?』
「そっか。うん、わかった…」
通話を切ったあと、ため息と共にソファに腰を下ろした。
ぐったりと背もたれに上半身を預け、ネクタイを引き下げ首もとを楽にする。
幻滅、されたか…?
デートを放り出して、元カノのところへ行く男。
改めて考えてみるまでもなく最悪だ。
弁解なんて出来ない。
けれど―――
これはどうしようもない俺の我儘。
いつしか胸に芽生えていた汐里への感情を、上手く扱うことが出来ない。
傷つけてしまったことは謝りたいし、この気持ちも伝えたい。
俺の自分勝手な想いを知ったら、君はどうするだろう。
そんなことを眠りにつくまで考えているうちに、気づく。
俺は一体、いつからこんなにも汐里のことばかり考えるようになってしまったのだろうか。