第5章 glass heart【赤葦京治】
ブツブツ言う目の前の弟は、気持ちいいくらいカレーを掻き込んでる。
「ね、部活楽しい?」
「楽しいよ。どうして?」
「私、部活とかしてこなかったでしょ?だから、海斗みたいに夢中になれるものがあるって、羨ましい。羨ましいし、カッコいいって思う」
「…おばさんみたい」
「あ!照れてる~!可愛いっ!」
「るせーなぁ…」
学生時代、私はバイトばかりしていた。
特別やりたいこともなかったし、興味のあることは流行りのファッションや新作のコスメ、旅行。
どれもお金のかかるものばかり。
始めはお金を稼ぐ目的で始めたけれど、それはそれで社会勉強になったし、いい出会いもあったし、貴重な経験ができたと思う。
でも、仲間同士で高めあって、競いあって、団結して何かをやり遂げようと努力すること。
学生の時にしか味わえない、こんな経験。
夢中になれる何かを見つけていれば、私にもそんな思い出があったのかなぁ、なんて考えたりもする。
でも考えたところで、私には二度と訪れない時代だから。
頑張ってる海斗を見守るのが、今の私の楽しみ。
「あ、姉ちゃん。明日も弁当肉入れて」
「ごめん、肉ないんだ。買い忘れてた。シャケ弁でもい?」
「シャケかぁ…」
「文句言うなら作らないよ」
「シャケ大好きっス」
綺麗に食べ終わったお皿を下げて、二人分の食器を洗う。
私もゆっくりお風呂に入ってスキンケアして、ようやく自分の部屋へ。
置きっぱなしにしていたスマホをチェックすると、一件の不在着信があった。