第5章 glass heart【赤葦京治】
いつもどおりに仕事を終え、いつもと同じ電車に乗り、歩き慣れた道を歩き、我が家に到着する。
時刻は20時。
多くの家庭は夕食を終えているであろうこんな時間から、私は食事の支度を始める。
うちの両親は共働き。
母が早く帰れる日は夕食が用意されているけれど、そうじゃない日の担当は私。
今日は両親とも食事がいらない日だから、私の分と高校生の弟の分だけ。
部活を終えて、今からクタクタで帰ってくる弟。
急いで準備しなきゃ、と冷蔵庫を漁った。
「カレーとサラダだけでいいよね。やだ、肉なかったっけ?ウインナー入れときゃいっか!」
誰に言うわけでもない、ひとり言。
カレーの材料になる野菜は適当に切って、不揃いな大きさのまま圧力鍋に放り込む。
水で浸して火にかけて、あとはサラダだけ。
キュウリとトマトを切ろうとそれを手にした所で、玄関の扉が開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「おかえり、海斗。ごはんまだだから、先にお風呂入って」
「へーい」
「あ!ユニフォームの泥、適当に落としといてよ!洗濯が大変だからってこの前言ったじゃん!」
「そんなこと言ったっけ?」
「言った!あんた好きでサッカーしてんでしょ?そのくらいしてよね!」
「わかったって!」
「あとお弁当箱、出し忘れないでよ」
「今帰ってきたとこだろ!?」
弟の海斗は高校1年生。
年が離れてるのもあって、世話を焼くのも私の役目。
とは言え、出来ることは自分でしてもらわなきゃね。
何も出来ない男になっちゃ大変。
こんな風に憎まれ口を叩き合うのはいつものこと。
だからと言って、姉弟仲は悪くない。
「部活どう?」
「大会近いから練習キツいよ。でも、レギュラーは死守!」
二人きりの夕食。
よく話題に出すのは、海斗の部活のこと。
「また応援行こうかな。差し入れ持って」
「来んなよ!みんなソワソワするから!」
「何それ?」
「姉ちゃんの中身知らない奴らは、姉ちゃんを美化し過ぎてんの!可愛くて大人しそうで、守ってあげたくなるタイプなんだと!」
「あはは!何それ?高校生のスポーツマンに守ってもらうのか。悪くない!」
「ゴ○ブリ見ても無表情でスルーするような女は、守る価値なし!」
「見なかったことにしただけじゃん」
「すんなよ!見たなら仕留めろって!」