第3章 <クロ生誕記念SS> 神様に誓う前に
「あれは…三人のうち、誰か一人が絶対的に悪いって話じゃねぇと思ってるから。それに、お前と二人で話した時。俺、背中押されたようなもんだよな?だから、もういい」
「…そっか」
「ああ」
「やり残したこと、ひとつだけ解決したわ」
微かに口の端を持ち上げて、大将は窓の外に目をやった。
含みを持たせたその言い方に、引っ掛かりを覚える。
「他にも何かあんの?…やり残したこと」
切れ長の瞳が動き、俺をまっすぐに見据えた。
は…?
何で黙ってんだよ…。
「おまっ…、まさか!梨央を連れ去るつもりじゃねぇだろうな!?」
「はぁ?さっきの話聞いてたぁ?ドラマか映画の見過ぎかよ!」
何かこの突っ込み、デジャヴるんですけど…。
「じゃあ何だよ?」
俺が詰め寄ると、呆れたようにため息をつき大将は立ち上がる。
そして、高い位置から俺を見下ろした。
「花嫁姿の梨央さんに、 "おめでとう" って言うこと」
「……」
「じゃあ、行くわ」
背を向けて歩いていく大将に思わず声を投げる。
「女の子、紹介してやろっかぁ?」
「いらねーわ!俺モテるし!」
「その割に彼女できねぇじゃ~ん?無理すんなって」
「厳選してんだよ!早く梨央さんとこ戻れ!」
ああ…この感じ。
こいつとは、昔から顔を合わせれば憎まれ口叩き合ってきた。
懐かしさと、今までどおりの俺たちに戻れた安心感。
いつのまにか解れている緊張。
妙に背筋の伸びた大将の後ろ姿は廊下の角を曲がり、見えなくなる。
「あ、優さんいた!南さんが探してましたよ。どこ行ってたんですか?」
「ああ、ちょっとね。紗菜ちゃんの今日のワンピ、可愛いね。似合ってる」
「えっ、ほんとですか…?ありがとうございます…。優さんもスーツ似合いますね…」
「そう?ありがとねー」
死角になった廊下の向こうから、大将と紗菜ちゃんのやり取りが聞こえてくる。
二人の声を背後に聞きながら、俺は梨央の待つブライズルームへ戻ることにした。