第3章 <クロ生誕記念SS> 神様に誓う前に
廊下を少し進んだ先。
レストランの庭が見渡せる大きな窓がある。
そばに置かれたソファーに腰掛けて、綺麗に手入れされたその庭に目をやった。
「あ?黒尾?」
ふと名前を呼ばれ、振り返る。
「新郎がこんなとこフラフラしてていいのかよ?」
そこには、怪訝な顔をした大将の姿が。
「お前こそ、何してんの?」
「俺はトイレの帰りだよ」
「へぇ?ここ親族用のフロアなんだけど」
「え?」
「大将ク~ン?方向音痴ですかぁ?」
「るっせぇな!」
「ゲストの待合室なら、そこ右行って突きあたり」
「どーも」
「いいえー」
普段どおりの俺たちのやり取り。
…なんだけど。
今日は、特別な日だから。
「「あのさ…」」
大将を呼び止めようとすると、思いがけず声が重なった。
向こうも困惑したような表情で、こっちを見ている。
二人して妙な間を作ったあと、思いきって、俺から先に口を開いた。
「ありがと…な…。今日。来てくれて」
失恋した女の結婚式になんて、本当は出席したくなかったんじゃないかと思う。
でも梨央の職場関係者の中で、大将にだけ打診しないのは周りに対しても不自然で。
梨央自身、無神経かも…と悩みつつ招待したところ、大将は迷うことなく出席の返事をしたらしい。
「いや…うん。おめでとう」
「ああ…ありがとう」
ぎこちなくお互い言葉を交わす。
過去のいざこざは置いといて。
今日はこいつに対しても、ちゃんと素直な気持ちを伝えたいと思ってんだ。
「あのさ、俺も…黒尾に言いたいことあった」
目の前にあるもうひとつのソファに、大将は腰を下ろす。
「…何?」
こんな風にこいつと向かい合うのは、あの日以来。
梨央と距離を置いていた頃。
こいつから、梨央への想いを打ち明けられたあの夜が脳裏に浮かぶ。
「悪かったと…思ってる」
「え?」
「梨央さんのこと。半分負け試合だって分かってた。でも、足掻きたくなっちまったんだよな…」
「……」
まあ、確かにこいつに対しては腹も立ったけど。
でも…