第3章 <クロ生誕記念SS> 神様に誓う前に
梨央にプロポーズされたバレンタインから、9ヶ月。
11月17日。
俺たちは、夫婦になる。
黒いタキシードと、一応ヘアメイクさんにセットしてもらった髪の毛。
鏡に映る自分の姿を横目に、俺はソワソワと落ち着きなくブライズルームの椅子に座っていた。
「梨央さん、このドレスお似合いですね。すごく素敵です」
「本当ですか?実は沢山悩んだんです。ありがとうございます」
品良く纏めたアップスタイルの髪に白い胡蝶蘭を飾ってもらいながら、鏡の中の梨央はふんわりと笑った。
綺麗だと思う。
本当に、心から。
今までに見た、どんな梨央よりも。
こんないい女が俺の奥さんになんの?
いいのか?
いや、誰にダメだと言われたって、もう梨央は俺のだけどな!
つーか、こういう時は女のが肝据わってるもんだな…。
梨央とヘアメイクのお姉さんは、楽しそうに談笑している。
何か…落ち着かねぇ…。
「梨央。俺、ちょっと外の空気吸ってくるわ」
「え?逃げないよね!?」
「逃げねーわ!ドラマか映画の見過ぎだろ!」
もちろん、本気でそんなこと思ってるわけじゃないだろうけど。
キッパリ突っ込んで、俺は静まり返った廊下へ出る。
あまり派手にはしたくないという梨央の希望もあり、式場はチャペルが併設されたレストランを選んだ。
一日一組の貸し切り。
ロビーからは、今日招待したゲストの声が聞こえてくる。
今日ここに集まってくれたみんな。
この日のために予定を空けて正装して、個人差はあれど時間をかけて、ここまで来てくれたんだよな。
そう思うと、本当に感謝しかない。
参列する立場だった時には想像も出来なかった。
新郎がこんな思いを胸に、挙式を控えているなんてこと。