第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
梨央がキッチンから皿に乗せてきたのは、ブラウンのドーム型の…
「フォンダン・ショコラ……」
茶色のショコラの上に、雪のような白い粉砂糖。
脇には生クリームが添えられている。
「約束、したでしょ?」
「……覚えてたんだ」
「もちろん。いつかてっちゃんに食べてもらおうって、ずっと思ってた」
俺が18歳の春先。
二人でカフェで食べた、フォンダン・ショコラ。
パティシエとして働く直前、梨央は約束してくれた。
『頑張って腕磨くから、またいつか、ね』
ほんの些細な口約束だった。
それも、何年も前の。
覚えていてくれた梨央に、心が震えた。
「温かいうちに食べて」
「うん。いただきます…」
フォークを入れると、トロッと流れ出るチョコレート。
ショコラと絡めて口の中へ。
甘くて、ほろ苦くて、温かくて。
「うまいよ…。なんか…人生の味がする」
「ふふっ、深いね」
甘いだけじゃない、苦いだけでもない。
誰もが二つの想いを混ぜ合わせながら、大人になる。
求めて止まないのは、温かい場所と、温かい存在。
俺にとっての梨央が、正にそれだ。
「私ね…ずっと考えてたの」
俺の手を握る梨央が、真っ直ぐ俺に瞳を向ける。
「てっちゃんが大好き。でも…私はいつも受け身で、守ってくれるてっちゃんに甘えてる。私の心は、まだまだ強くない。てっちゃんに貰うものばかりでごめんね」
「は?んなことねぇよ!」
「ううん、聞いて?だからね、今までくれたものを少しでも返せるように、一生かけてでも、てっちゃんを守れるような女になるね。
てっちゃんの弱いところも受け止めたい。
頼って貰える存在になりたい。
もっと強くなる。
てっちゃんのそばにいれば、そんな私になれるような気がするの。
だから……」
一瞬言葉を止めて、息を吸って…
迷いも揺らぎもない澄んだ声で、梨央はそれを、俺に告げた。
「鉄朗、私と結婚して下さい」