第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
リビングのクッションの上に座り、コーヒーを啜りながら出勤までの時間をお喋りに費やす。
「今夜、うちで待ってるね」
「ああ」
「楽しみにしてて」
「何?ケーキでも作ってくれんの?」
「ふふっ、まだ内緒」
2月14日。
今日は、バレンタインデー。
イベントの時、梨央は手作りのスイーツを作ってくれる。
俺の誕生日には、フルーツケーキ。
クリスマスには、ブッシュ・ド・ノエル。
年越しは、蕎麦と一緒に抹茶のあんみつ。
今回は何だろう?
梨央が作ってくれたスコーンを摘み、ベリーソースにつけて食べる。
「美味しい?」
「うん、うまいよ」
「よかった。まだあるんだ。作り過ぎちゃった」
照れたように指差す先。
キッチンカウンターの上、皿にこんもり山になったスコーンがある。
「…ちょっと食えねぇかな…。また明日の朝食おうぜ」
「うん」
いつもの冬の朝に、梨央が作ってくれた朝食と、一杯のコーヒー。
そして、愛しい恋人の笑顔がある。
俺の日常は、幸せに満ちていた。