第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
*夢主side*
閉店時間になり、各々片付けを始める。
家で待ってる、と言い残して、てっちゃんは帰って行った。
ふと、同じ空間にいる優くんに目がいく。
ふわふわした気持ちは取り合えず閉じ込めて。
ちゃんと、彼とも話さなきゃ。
「優くん」
ソースを煮詰めている鍋から私に視線を移して、優くんは作業する手を止めた。
「私…狡いことして、甘えて、ごめんなさい。優くんが好きって言ってくれて、すごく嬉しかった。でも…その気持ちには応えられない…」
優くんは黙って私を見つめた後、微かに口の端を上げる。
「律儀な人ですね。わかってますよ」
「うん…」
「黒尾のこと…信じられるんですか?」
「信じるし、信じたい。私には、てっちゃんしかいないから」
調理台にもたれて腕を組んだ彼から、小さなため息が聞こえた。
「梨央さん、男次第で不幸になるタイプだね」
「……」
「黒尾がまともな奴だから、結果良かったってだけでさ」
「……てっちゃんのこと、そんな風に思ってたんだ。いい奴、って」
「は!?いい奴とは言ってねーから!」
「そう?」
「そうだよ。……もう、流されて他の男とキスなんかすんなよ?」
「……うん」
優くんが口が悪くなるのは、ムキになった時と、照れ隠しする時。
だって、ほら…
髪の毛に手を伸ばして、クシャッと弄ってる。
優くんの癖だ。
「一個、聞いていい?」
「…何?」
「もし…黒尾がいなかったら、俺のこと好きになってくれた?」
そう聞いてくる優くんの笑顔は、どこか寂しげ。
こんな顔、初めて見る。