第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
二人店を出て、裏口へと回る。
人通りから離れた場所だから、とても静かだ。
秋の夜は程々に寒く、ただつっ立ってるだけじゃ身震いする。
寒くないかと梨央を窺えば、その口から小さな声がこぼれた。
「てっちゃんのいない毎日はね、まるで色がなくなったみたいに思えた」
自分の足元を見つめながら、小さく呟く。
「暗くて、寂しくて、不安で…。いっぱいいっぱい、後悔した。信じきれなかったこと。それから、てっちゃんを裏切ったこと…」
「梨央…。それはもう…」
「自分が許せないの。だって結局、てっちゃんは何もしてなかったじゃない。私は…違う。あの時、拒もうと思えば拒めたんだよ。でも…流された…」
「……」
「本当にごめんなさい。てっちゃんのこと、大好きだよ。でも、もう…」
梨央の言おうとしていることがわかる。
表情から、声色から、仕草から。
俺はこんなにも、梨央のことがわかるようになっていたのか…。
ダメだ。
言わせない、そんなこと。
「やだね」
咄嗟に言葉を被せた。
「もう、付き合えない」って…そう言うつもりだったんだろ?
そんな台詞、梨央の口から聞きたくない。
梨央は俺を見上げると、瞳を揺らした。
「俺だって、 "何もなかった" って自信をもって言えなかった。同じだろ?」
「同じじゃないよ」
「俺も成瀬とキスしたんだし」
「されただけでしょ?」
「されただけなら、梨央は平気なのか?俺が他の女とキスしたって知っても、なんも思わねぇの?」
「それ…は……嫌、だよ……」
……よかった。
その言葉が聞けなかったら、どうしようかと思った。
「じゃあ俺たち、同じ気持ち味わったんだよな?嫉妬で苦しくて、お互い傷つけて、傷つけられて」
「うん…」
「だったら、梨央の傷は俺が癒す。俺の傷は梨央が癒してくれよ。俺を傷付けた自分が許せないってんなら、梨央が責任もって、傷、治してくれよ」