第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
出会ってから今まで、色んな梨央を見てきた。
泣いている姿だって、何度も何度も。
「あいつはもう、散々傷ついてきてんだよ…。でもその度に立ち上がって…。辛いそぶりなんて見せないで、いつも笑ってて、人に優しくて…」
そう、いつもそうだった。
沢山泣いたって、その分沢山笑ってた。
俺を好きだと言ってくれて
愛情をくれて
幸せにしてくれて……
「俺のすっげー大事な女なんだよ…!」
込み上げる何かに耐えながら、声を絞り出す。
浮かぶのは梨央の姿ばかり。
梨央の声ばかり。
俺が世界でたった一人、
心から幸せを願う女が、梨央だ。
壁に拳を押し当てたまま、勝手に繰り返される呼吸。
成瀬は何も言わない。
ふと腕を強く掴まれる感覚がして、ゆっくりと顔を上げてみる。
「そんな怖ぇ壁ドンあるかよ。何してんだ、女の人相手に」
そこには、呆れたような目で俺を見る大将がいた。
目の前の成瀬は、眉間を歪めたまま浅く息をしている。
「あいつを傷つけないでくれよ……頼むから……」
掴まれた腕をだらりと垂らした。
本当に、もう、
頼むから止めてくれ……。
大きく息をつく。
腹に溜まった憤りを吐き出すように。
すると、脚の横まで下ろした手が温かいものに包まれた。
「てっちゃん…」
久しぶりに聞いた声に、心臓が跳ねた。
見下ろしたところには、焦がれて堪らなかった女の姿がある。
最後に会った日は、いつだっただろうか…。
すでに懐かしく感じてしまうほど、それは遠い日のことに思えた。
梨央は俺の手を両手で包み、目を赤くしている。
ああ…泣くのを我慢してる顔だ。
「梨央……」
何も言わず俺を見つめてくる梨央に、胸が熱くなる。
目を細めて、微笑みを携えて。
きっと俺を思って、涙で頬を濡らそうとしている。
「てっちゃん。大丈夫だから、私……」
何が大丈夫だよ。
全然大丈夫な顔じゃねぇだろ…。
「私は大丈夫だから……そんな顔しないで……?」
"そんな顔" ―――?
「何で…?何で、黒尾くんが泣きそうな顔してるのよ…?」