第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
成瀬は目の前のカクテルをひと口飲むと、浅井さんに促され先を続ける。
「中3の途中で武田さんが転校することになって、それで別れちゃったみたいです。兄にしては親身になってたんで、ほんとに好きだったんだろうなって思ってたんですけどね」
「どういうこと?」
「家の事情が複雑で、転校が決まったらしくて」
おい……
「何?親の転勤とか?」
「転勤だったら良かったですけど。悲惨ですよ?」
「は?何?」
待て……
「私だったら恥ずかしくて学校なんか行けないな。意地悪な兄だったけど、ちょっと見直したくらい。よく付き合ってられるなって。だって、血は争えないかもしれないし」
待てよ、言うな……!
「武田さんのお父さん、よその女と、」
「成瀬っ!!」
続こうとしていた言葉を、大声で掻き消す。
一気にその場は静まり返った。
何事かと俺を見る浅井さんと、顔を強張らせた成瀬が映る。
「どした…?黒尾?」
背後から木兎の声もするが、それに返事してやれる余裕なんてない。
腹の底から怒りが込み上げてくる。
今度はこいつかよ…!
梨央が一体何したってんだ…!
「お前、来い!」
「きゃ…、何…!」
成瀬の手首をひっ掴み椅子から立ち上がらせ、客席から死角になる通路へ引っ張ってくる。
それから力任せにその体を壁に押し付けた。
「てめぇ…っ、ふざけんなよ!!」
鈍い音が響く。
手がジンジンと痛い。
気づけば俺は、成瀬の顔の真横に拳を降り下ろしていた。
「あんなとこでしていい話じゃねぇだろ!」
「な…なに、よ…!ほんとの事じゃない!!」
「本当のことだからだろ!根性腐ってんのかよ、お前!?」
開き直る態度に怒りは留まらない。
こいつが男なら、きっととっくに殴ってる。
「ちょ、黒尾さん!?何してるんですか!?」
通りかかった紗菜ちゃんが、成瀬に詰め寄る俺を止めに入る。
「…っ、悪いのは黒尾くんでしょ!?」
「だったら俺を責めたらいいだろ!何あいつに矛先向けてんだ!」
「黒尾さんやめて…!誰か…、優さんっ!!」