第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
もう何杯目かのカクテルを飲み干した浅井さんは、紗菜ちゃんを呼びつけてまた何か頼んでいる。
この人あんま酒癖良くねんだよな…。
これを最後にしといた方がいいな。
「浅井さん。そろそろラストオーダーっすからね?今ので最後ですよ」
「えー。もうラスト?つまんねぇ!じゃあ、お前と梨央さんの馴れ初めでも聞かせろ!」
「はい? "じゃあ" の意味がよくわかんないんすけど」
「モテ男の恋愛事情に興味持つのはフツーだろ?」
「そういうのはまた今度」
「あ!それ "今度" がないやつ!」
わー…面倒くせぇぞ…駄々こね出した。
「別に馴れ初めくらいいーじゃん。なぁ、成瀬サン!」
「…そうね」
木兎…!そいつ、この前ファミレスで話した女なんだよ!
成瀬に話を振るんじゃねぇ!
「あ!わかった!だったら梨央さんに直接聞けばいいよな?梨央さ~、…むぐっ!」
「浅井さんっ…!」
慌てて手を伸ばし、その口を塞ぐ。
マジで止めてくれ!
今の俺たちはそんなノリの話できる空気じゃねーんだよ!
「あっ!浅井さんの酒まだじゃね?紗菜ちゃ~ん!ジンバックまだぁ!?」
さすがの木兎もまずいと思ったのか、一緒になって気を逸らしてくれる。
梨央に話振るくらいなら、今俺から話す方がよっぽどかマシだ。
「はぁ…わかりました。話しゃいいんでしょ?元々は実家が近所だったんすよ。中学の時、梨央が引っ越してきて」
「そういや、成瀬と同じ中学だったんだっけ?」
「ええ。うちの兄、随分武田さんに入れ込んでたみたいで」
「そうなの?」
「私の家、兄の友達の溜り場だったんですけど、自慢してるのよく聞こえてきたんですよ。武田さんを彼女にしたとか言って」
「え!?成瀬兄、梨央さんの元カレなの!?」
…マジ?世間狭すぎだろ。
まあ…中坊の頃の話だし。
さすがにそこに嫉妬なんてしない。
「それでそれで!?」
俺との馴れ初めはもういいみたいで、梨央と成瀬兄の話に刷り変わってる。