第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
足を一歩踏み出したところで、はたと気づく。
木兎の隣に、ひとつ空席。
それを跨いで飲んでる二人。
浅井さんと…成瀬。
「黒尾さん、いらっしゃいませ。木兎さんとご一緒ですよね?」
「あー…うん」
バイトの紗菜ちゃんの案内で、木兎の隣の席へ。
「おっす黒尾!お疲れ!」
「おっすー」
そこへ腰を下ろしながら、逆隣の成瀬と浅井さんにも声を掛ける。
「お疲れ様です」
「あれ?黒尾じゃん。何?今まで仕事してたの?お疲れさん」
図らずも、俺は成瀬の隣に座ることになってしまった。
成瀬には、どうやら恨まれちまってるらしい。
梨央の前で軽井沢の夜のことを暴露したのも、それが理由だろう。
キスして気をもたせておいて、何もなかったことにしようとしてる俺……成瀬にはきっと、そう映ってしまっている。
その証拠に、俺の顔を見ようともしない。
「黒尾何飲む?」
「あー、すんません。今日はこいつと待ち合わせてて。友達なんすよ」
成瀬越しに浅井さんと言葉を交わし、木兎を指差す。
「ナニナニ?黒尾の会社の人?こんばんはー!俺、木兎って言います!」
「どーもー、浅井ですー」
「成瀬です」
無駄にコミュ力の高い木兎と浅井さん。
すっかり意気投合した二人に両サイド挟まれて、俺たち四人は酒を飲み進める。
「へぇ!木兎くんてバレー選手なの!ごめんね、俺バレー疎くてさぁ」
「いえ、そんなもんっすよ。バレーファン以外に名が知れるって相当厳しいんで。でも、ガンガン活躍して世間に "木兎光太郎" を浸透させますから!俺のこと忘れないで下さいね!」
「いや、こんな個性強い奴忘れらんねーよ!そういや、黒尾もバレーやってたんだっけ?」
「はい」
「二人とも背高いもんな。女の子にもモテんじゃないのー?」
「俺はまあまあっすかね。でも黒尾は昔っから腹立つくらいモテる!」
「知ってる!社内で俺に話しかけてくる女の子の8割は黒尾の情報収集だもん!」
「可哀相っすね、浅井さん」
「だろ!?可愛い子に話しかけられたー!と思ったら、黒尾目当てだもんね。俺のドキドキ返せ!このトサカヘッド!」
テンション高けーな、この二人…。
口挟む隙もねぇ。
つーか、俺を話題に盛り上がるの止めてくんね?