第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
*黒尾side*
梨央とちゃんと話をしよう。
梨央への想いを、全部ぶつけよう。
そう心に決めて、俺は今、スマホを手にしている。
昨日大将とお互いの胸の内を話して、もう逃げるのも誤魔化すのも止めだと改めて決意した。
そうなると、一刻も早く梨央に会いたい。
気持ちを伝えたい。
散々傷つけてホント勝手かもしんねぇけど、叶うのなら…
もう一度、この腕で抱き締めたい。
今日の業務を終え、残業もこなし、あとは帰るだけ。
左手を揺らして腕時計に目をやる。
梨央はまだ仕事中か…
閉店して程々に時間を置いてから連絡を…
そう考えていた矢先。
手元から聞き慣れた着信音が響く。
[木兎光太郎]
何だ?
こいつから連絡がある時は、決まって "今から会わねぇ?" だ。
まあ、一応出るけどさ。
今夜はちょっと無理だぜ?
「もしもし」
『おーっす!今どこ?黒尾仕事終わってる?』
「ああ。今、会社」
『んじゃあさ。俺、南さんとこで飲んでんの!お前も来いよ!』
いや…
飲みにっつっても、俺は梨央と話が…
『あれから梨央ちゃんと話せたのか?』
うん、だからな?
今夜そのつもりでいるんだよ。
「いや、まだ…」
『じゃあ丁度いいじゃん!梨央ちゃんの仕事終わるまで、俺と飲んで待ってればさぁ!』
えー……
大事な話をしようって直前に、こいつと飲むの?
梨央に見られたら、何呑気に飲んでんだと思われるじゃねーか…。
『じゃ!待ってるから!』
電話は、俺の返事なく強制終了。
まあ…梨央に会いに行こうと思ってたのは確かだし。
隙を見て、閉店後時間あるか聞きゃあいいか…。
そうと決まれば、帰り支度をして会社のエントランスを抜ける。
桜の頃。
南さんの店で梨央と再会して、何度となく通った道。
こんなにも速い鼓動を打ちながら歩くのは初めてだ。
店内に入りサッと客の顔を見回すと、厨房横のカウンター席に木兎の姿を見つけた。