第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
嫌な思い出。
竜くんの仕業なのか、それからまた私はクラスで浮いた存在になってしまい…。
転校が決まった時は、正直心底ホッとした。
あんな酷いこと言われて、酷いことされて…。
トラウマにならなかったのが不思議なくらい。
…………トラウマ?
『あいつ、雷苦手らしいんだよ。雷の日に兄貴に物置に閉じ込められたとかで…トラウマなんだって』
『うちの兄、気性が荒いから大変だったでしょう?私も散々虐められたし…』
てっちゃんと成瀬さんの言葉が、嫌な思い出と共にリンクする。
胸にストンと何かが落ちた気がした。
ああ……
竜くんなら、妹にも同じことやりかねない。
てっちゃんはきっと、あの日の成瀬さんに嘘がないこと、ちゃんと見抜いてた…。
その上で、部屋に行ったんだ。
てっちゃんは、誰にでも優しい。
私に嘘だってつかない。
そういう人だってこと、わかってたはず。
それなのに、私の嫉妬が彼を責め立ててしまった。
「黒尾くんて、」
私の意識を引き戻すように声が響く。
「ぶっきら棒に見えてほんとお人好しですよね。彼女いるのに。優しさって時にはすごく残酷ってこと…知らないのかな…」
何が言いたいのかよくわからない。
眉間に深くシワを作って、怒りを潜ませたような顔をしている。
掛ける言葉が見つからないままでいると、ホームに電車が入ってきた。
「じゃあ、私ここで」
最後に私を一瞥し、成瀬さんは人の波と共に電車の中へと消えていった。
てっちゃん…
私って弱いね…。
てっちゃんがどんな人なのか、ちゃんとわかってたつもりでいたんだよ。
いっぱいいっぱい、私に愛情をくれてたのもわかってた。
でも、信じ抜いた先に待っているものが "裏切り" だったらと思うと、怖かったの。
信じてた分、愛していた分、
てっちゃんの心が離れてしまうことを思うと、怖くて怖くて堪らなかった。
てっちゃんを追い詰めていたのは、私の心の弱さだ。