第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
店の中の、厨房より更に奥。
スタッフが休憩に使っている部屋がある。
そこを陣取る少し大きめの三人掛けのソファーに、優くんを促した。
「寝てていいよ。お水持ってくるからね」
取り合えずバッグだけソファーに置いて、厨房へ足を向ける。
すると、後ろから手首を掴まれた。
ここにいるのは、私と優くんだけ。
掴んだ主は当然優くんで。
反射的に振り返り、彼を見下ろした。
「びっくりした…。どうしたの?」
「……一緒に寝よ」
え……
な……何…?
ちょっと…待って…
そんな甘えた感じで言われても…。
っていうか、誰かと勘違いしてる?
あ、そっか……もしかして、彼女とか?
「優くん、いくら酔ってるからって、そういうこと良くないよ」
ソファーに腰かける優くんに、戸惑いつつ返す。
真っ直ぐな瞳で見つめられ、握られたままの手首に少しだけ力が入った。
次の瞬間。
「きゃっ…」
勢いよく手を引かれ、私は優くんの体に倒れ込む。
彼は私を抱き留めるように、背中へ腕を回した。
「な…ちょっとっ…ふざけないで!」
体を捩ってみるけれど、腕に力を込められて身動きが取れない。
私の肩に顔を埋める優くん。
そこからため息混じりの低い声が響く。
「俺、ベッドが変わると寝れないんすよ」
「それとこれと…何の関係があるの?」
「少しでも寝心地が良ければ、眠れるかなって」
「…?」
「そこに武田さんがいたから。柔らかそうだし、抱き枕にいいかなって」
そんな……
「そこに山があるから…」みたいに言われても。
抜け出そうとしても、男の人の力には到底敵わない。
優くんの手は私の背中に回されたまま。
抱き締める以上のことはしない…というか、身動きひとつしない。
取り合えず、一旦抵抗するのを止めた。
でも様子を見てみても一向に反応はなくて…。
え…?もしかして、寝ちゃった?