第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
優くんの顔を確かめるため身動ぎすると、耳元で小さく声がした。
「ホント、警戒心なさすぎ。俺に好意をもたれてるかもって、疑わないんですか?」
「……」
思考がストップする。
彼の言葉が何度も頭の中を巡る。
好意……?
何?え…?
優くんが……?
途端に忙しなく動く心臓。
顔にブワッと熱が集まる。
「冗談…やめて…」
「勝手に冗談にしないで下さいよ」
少し怒ったように声が低くなり、腕に力が入った。
「あの携帯拾った日。武田さんが現れた時、スゲー好みの人来たって思ったんです。でも街中でそんな人に出会ったって、それで終わりでしょ、普通。
……だけど、終わりじゃなかった」
ひと呼吸置いて、優くんは続ける。
「冗談っぽく言ったけど、冗談じゃないです」
「…え?」
「アレです。 "彼氏に立候補しようと思ってた" ってやつ。それがまさか黒尾の彼女とか…何なんすか、本当…」
少し苛立ったような声とため息。
「でも見た目が好みってだけだし、まあ別に…って感じだったんですけど…。大人っぽいのにセミなんかでビビってるし、仕事一生懸命だし、優しいし、いつも人懐っこく話しかけてくるし。この人可愛いなーって思うようになっちゃって…」
そこまで言うと、顔を上げて私を見つめた。
その瞳は、真っ直ぐ。
真っ直ぐ過ぎて、顔を赤くするしか反応できない。
「今日も、甲斐甲斐しく世話してくれるし…」
囁く声は、いつもみたいに穏やかで柔らかい。
それなのに、今日の優くんは感情をストレートに見せてくるから。
優くんなのに、優くんじゃないみたい……。
「俺、武田さんのこと、マジで好きになっちゃった」