第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
手を取って、グッと引き上げる。
立ち上がり私を見下ろした彼は、うっすら色気を漂わせて笑った。
「武田さんの手、小さくて可愛い」
「……」
ちょっと…
ちょっとちょっと……
これは良くないんじゃない?
こんな顔で、こんな声で、こんなセリフ。
勘違いしちゃう女の子、きっといるよ…?
「私の手が小さいんじゃなくて、優くんの手が大きいんだよ。ほら、行こ」
優くんの手首を掴んで、店の出入口へ連れていく。
「お会計済ませてくるね」
「俺払いますよ」
「大丈夫。南さんがお金置いてってくれたから。酔ってるんだから少し休んでて?」
「わかりました…。酔ってはねぇっすけど…」
ブツブツ言いながら、優くんは店の外へ出て行った。
いつも優くんには助けられてるから、こんな時くらい、私がしっかりしなくちゃね。
帰りの電車に乗るまでは見届けなきゃ。
終電まではあんまり時間がない。
急がないと…。
手早くお会計を済ませて外に出る。
優くんは、扉のすぐ横の壁にもたれ掛かって待っていた。
え…。
立ったまま寝てるけど…。
「ねぇ、優くん。急がないと終電間に合わない」
「大丈夫大丈夫。走れば間に合いますって」
「寝てる人が何言ってるの!」
半分寝てるくせに走れるわけない。
何度か同じようなやり取りを繰り返したあと、強引に腕を引っ張って、やっと動き出す優くんの足。
腕時計に目をやる。
もうこれ、完全に間に合わないよ…。
しょうがない、タクシー使おう。
「ねぇ、優くんちどこ?」
「んー…?姉ちゃんちの近く」
へぇ…優くんお姉さんもいるんだ…
じゃなくて!
「お姉さんちはどこ?」
「んぁ?俺んちから歩いて10分くらいのとこ」
ち が う!
酔っ払いの思考回路めんどくさいな!
「なんか、気持ち悪くなってきた…」
「え!吐く?」
「たぶん大丈夫……大丈夫じゃねぇかな…」
「どっち!?あ、そうだ。お店の鍵、持ってるんだよね?もう今日は店に泊まりなよ。ね?」
「うん…。店…あっちか…」
「違う、こっち!」
全く逆方向へ行こうとする優くんの大きな体を何とか引っ張って、私たちは再び南さんの店に向かった。