第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
南さんは彼女と付き合いが長いらしく、そろそろ結婚かなー、なんて話しもちょくちょくしてる。
式挙げる時にはウェティングケーキ作ってね、なんて言ってくれて。
もし本気でそう思ってくれてるのだとしたら、それはもう張り切って作らせてもらうつもり。
目の前のワインをちびちびと飲み進めて、おつまみのナッツを口に放ったところで、南さんが戻ってきた。
「ごめん、武田さん。彼女が熱出しちゃったみたいでさぁ」
「え?大丈夫ですか?」
「うん。でも何も食ってないって言うから。心配だし、俺ちょっと家行ってくるわ」
「はい、そうしてあげて下さい」
「優も悪いな。これ使って」
早口でそう言いながら、一万円札をテーブルに置く。
「え?ちょっと多すぎ…」
「じゃあな!」
私の声など届いていないようで、南さんは店を飛び出して行った。
まあ…明後日返せばいいか。
終始無言の優くん。
頬杖をついたまま、大きな手の平で私から顔を隠している。
大丈夫かな…?
「優くん?」
横からその顔を覗き込んでみると……。
寝てる。気持ち良さそうに。
もうすぐ終電だし、南さんも帰っちゃったし。
「私たちも出ようか」
「んー…」
「優くん?行こう?」
そっと肩を揺すれば薄く瞼を開き、気だるそうに眉をひそめた。
「武田さん…?兄貴は?」
「彼女が熱出したからって、帰ったよ」
「そっすか…」
「立てる?」
優くんは無言で私を見上げ、ジッと見つめてくる。
それからおもむろに、両手を私の前に差し出した。
「………立たせて?」
頼りがいのある、いつもの優くんとは真逆。
こんな風に甘えるみたいにされると、母性本能が疼くというか…
可愛い…なんて、思ってしまう。