第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
調理台に並べられたお皿にゆで野菜やソースをトッピングしていると、隣に優くんがやって来た。
「急がなくていいですよ。俺もここ、入ります」
「ごめんね…遅くて」
「全然」
そうは言ってくれるけど、優くんと私じゃスピードが桁違い。
何か全く役に立ててる気がしないんだけど…!
優くんは下ごしらえしながらも、煮詰めたソースの味見をしたり、お肉の火加減を見たりしてる。
「兄貴。フォンドヴォー、もうちょい足して」
「はいよ」
南さんとの息も合ってるし、さすが兄弟。
魚介類の下処理を黙々とこなし、バットごと南さんのそばへ持っていく。
「ありがとね、助かるよ」
「いえ」
あとは…何か出来ることあるのかな。
厨房を見回していると、優くんと目が合う。
「大丈夫ですよ。メイン出したら少し余裕できますから」
「ほんと?」
「はい。それに、お客さんに出しても一瞬で腹に入るワケじゃないですし」
それは確かにそうだよね。
二人とも、ちゃんとお客さんが食べる時間も考えて作ってるのか。凄いな…。
「助かりました。ありがとうございます」
「そんなそんな!全然大したこと出来てないし」
「いえ。武田さんいなかったら、絶対お客さん待たせるハメになってたし。それに、バイトちゃんもヘコみ過ぎて仕事にならなかったかも」
「私もうっかりミスよくするから。他人事じゃなくて…」
優くんて、こんな状況でもすごく落ち着いてる。
何か一気に緊張から解放された。
「あと出来ることある?」
「大丈夫です」
「じゃあ私、三番のテーブル片付けてくるね」
お客さんが帰ってしばらく経ったテーブル。
今日はみんな手一杯で、片付けは後回しになってる。
厨房の中はそれでもいいと思うけど、せめてお客さんの目に触れる店内は綺麗にしておきたい。